にちにち日記

好きな植物はニチニチソウ。日々是好日ということで。

半クラの話

 

 

 

ある女性が、自動車教習所に通っていました。

女性では珍しく、マニュアル車の免許を受講していました。

彼女は苦戦しながらも、技能試験と校内の実技試験に合格し、仮免許を取得しました。

 

そして、晴れて路上教習に臨む事となったのです。

 

彼女は緊張していました。

マニュアル車は、常にエンスト(エンジンがストップすること)の恐怖に晒されます。

校内では、何度なくエンストし、坂道発進なんて考えただけで冷や汗が出ます。そんな不安が頭から離れないまま、初の路上教習は始まったのです。

 

ブレーキを踏みながらキーを回してエンジンをかける。

サイドブレーキを引いて、クラッチを踏み、シフトをローに入れて、アクセルペダルを徐々に踏み込む、、、、

「手順通りにすれば大丈夫。」

自分に言い聞かせます。

慎重に進み出した車は、信号のある大きな交差点に差し掛かります。

教習のルートではここを右折しなければなりません。

対向車が通り過ぎるタイミングを測りながら躊躇することなく曲がりきらなければならない交差点右折は、まさに最初にして最大の難所です。

信号が赤になり、一時停車。

ゴクリ、嫌な予感がよぎり心臓が早くなります。

「慎重に臨めば大丈夫。」

彼女は呟きます。

信号が青になり、進み出す教習車。

対向車が通り過ぎるのを待ち、勢いよく右折!

と、その時です。

どっ、どっ、どっ、ど、、

ぱすんん、、

 

あろうことか交差点の真ん中でエンストしてしまったのです。

パニックに陥っている彼女を落ち着かせるように、教官が冷静に指示を出します。

「まず、エンジンを切って、もう一度エンジンを掛け直そう。」

「エンジンを切って、、掛け直す、、、」 

震える声で復唱します。

「そうしたら、ギアをローに入れ直して、半クラ(半分クラッチを踏む)でスタートだよ。」

 

「ギアをローに入れて、半クラ、、っと」

その時です。 

 

「ップ」

 

なんとテンパった彼女は、

半分くらいの力でクラクションを鳴らした(半クラ!)のでした。

 

あなたならどうでしょう?

交差点の真ん中で停車する教習車から、すごく控えめなクラクションが聞こえきたその光景から、このとんでもない勘違いを察することは出来ますか?

この日常に潜む奇跡の物語を。